ポートレート 人物を描く

ポートレート 人物を描く

portrait

人物を描くということ

– 存在と意識のあいだで –

私はこれまで、世界遺産や富士山、歴史的な構図を引用したオマージュ作品など、風景や文化遺産をモチーフに描くことが多くありました。
けれど最近、とあるきっかけから、「人物」というモチーフに向き合う時間が増えています。

人物を描くということは、とても不思議な行為です。
たとえば、その人の顔、表情、髪の流れ、衣服の質感。
目に見えるすべての要素を写し取っていけば、それで肖像になるのかといえば、そうではありません。

むしろ、「見えない何か」を掴もうとする行為に近いのです。
内面、雰囲気、人生の背景、時間の流れ。
それらが、筆先から少しずつ滲み出すようにして現れてくる瞬間を待つような制作です。

私はこの感覚に、量子力学の視点を重ねています。
量子の世界では、観測するまでは「在るとも、無いとも言えない」とされる現象があります。
人物もまた、画家のまなざしと交差する地点において、はじめてその輪郭を現してくる。
絵筆を持つ私は、ただ「観る者」ではなく、「存在の一部」を引き出す役割なのかもしれません。

特に、今描いているのは、現代を生きる人たち。
企業家、旅人、母親、子どもたち…。
それぞれの人生が持つストーリーに触れながら、私はキャンバスに向かいます。

その人物の“過去と未来”の交点として、今ここにある姿を描く。
それは、絵画を通じてその人の「魂のスナップショット」を残すような行為です。

人物を描くことは、対象と自分との対話でもあります。
だからこそ、描くたびに、自分自身の内側もまた深く揺さぶられます。
誰かを描くことは、私自身を知る旅でもあるのです。