エッフェル塔の絵
Paris, Banks of the Seine_France
松田光一がエッフェル塔を初めて描いたのは、2011年のことである。
当時の彼は、まだ世界の大地を踏みしめた経験を持たず、旅は想像の中の出来事だった。キャンバスに描かれた塔は、パリという都市の象徴であると同時に、「いつか行ってみたい」という願望と憧れを映す心象風景でもあった。
この初期のエッフェル塔作品は、実在の景観を描いたというより、「見たことのない世界」を内面から引き寄せた結果として生まれた。言うなれば、記憶に先行する想像の塔である。
それから十年以上が経ち、松田は実際に世界を巡り、多くの遺産を訪れ、空気を吸い、その土地の光と音を経験してきた。そして今、再びエッフェル塔に筆を向ける。その行為は、過去の自分と現在の自分との対話であり、「想像」と「現実」の交差点に立ち上がる新たな風景の構築だ。
今回の作品には、ただの都市的記号としてのエッフェル塔ではなく、旅の出発点としての記憶、そして今ここに立つ「私」という存在の軌跡が、重ね描かれている。風景は同じでも、それを見る視点は変わった。その差異こそが、時間の堆積を伴う表現となり、観る者に深い奥行きを感じさせる。
松田光一のエッフェル塔は、世界遺産としてのランドマークであると同時に、ひとりの作家の人生と精神の軌跡を象る“記憶の塔”でもあるのだ。
旅の記録



Art #0044
Paris, Banks of the Seine
○日本語名称:パリのセーヌ河岸
○特徴:ノートル・ダム大聖堂、エッフェル塔、ルーヴル美術館など
○場所:ヨーロッパ フランス共和国
○登録基準:(i)(ii)(iv)
○登録年:1991
○遺産分類:文化遺産
○概要:パリ中心部を流れるセーヌ川沿いの区域には、ノートル・ダム大聖堂、ルーヴル美術館、エッフェル塔などの歴史的建築が連なり、16世紀以降の都市景観の変遷を今に伝えています。橋や遊歩道、広場が巧みに配置され、人々の生活と一体となった都市設計は、ヨーロッパ都市計画の模範とも言える美しさを持ちます。川と建築、そして人の営みが調和するこの景観は、パリの精神を象徴しています。