2024年に登録された世界遺産より
第46回世界遺産委員会は、2024年7月21~31日にインドのニューデリーで、開催された。当初会場は2023年9月に完成した新国際会議場ヤショブミが使われる予定であったが、最終的に国際展示コンベンションセンターのバーラト・マンダパムとなった。今委員会では日本が推薦した佐渡島の金山(新潟県佐渡市)の登録もあり、緊急案件を含む24件(文化遺産19、自然遺産4、複合遺産1)が新規登録され、世界遺産の総数は1223件となった。
Bosnia and Herzegovina
ボスニア・ヘルツェゴビナ南部のラヴノに位置する洞窟。この洞窟は、ヨーロッパで最も重要なカルスト地形の一つであり、全長約6.7kmの地下通路を持つ壮大な自然遺産です。洞窟内には、珍しい鍾乳石や地下湖、古代の動物の化石が見られます。また、特に固有種の生息地として知られ、プロテウス・アンギニス(オルム)などの希少な地下生物が確認されています。自然科学や生物多様性の研究においても重要な場所です。
Via Appia. Regina Viarum
Italy
アッピア街道 ― 道の女王 イタリア
古代ローマ時代に建設された最も重要な道路の一つです。この街道は紀元前312年に建設が始まり、ローマと南イタリアを結ぶ主要な交通路として機能しました。全長約540kmに及び、軍事や商業、文化交流の発展に寄与しました。現在も石畳や橋、墓地、記念碑などが残り、古代ローマの土木技術や都市計画の卓越性を物語っています。文化的・歴史的価値が非常に高い遺産です。
The Historic Town and Archaeological Site of Gedi
Kenya
ゲディの歴史的町と考古遺跡 ケニア
ケニアの海岸沿いに位置するスワヒリ文化の重要な遺産です。ゲディは13世紀から17世紀にかけて繁栄した交易都市で、モスク、宮殿、住宅跡などの遺構が発見されています。特に、珊瑚石を使った建築技術や、インド洋交易を通じた文化的交流を示す陶器やガラス製品が注目されています。この遺跡は、スワヒリ文明の都市計画や生活様式を理解する上で貴重な証拠を提供しています。
The Flow Country
United Kingdom of Great Britain and Northern Ireland
フロー・カントリー UK
スコットランド北部に位置する世界最大級の泥炭地帯で、2024年に世界遺産に登録されました。この広大な湿地帯は、厚い泥炭層が形成する独特の景観を持ち、地球の気候調節に重要な役割を果たしています。泥炭地は二酸化炭素を大量に吸収・貯蔵する天然の炭素貯蔵庫であり、気候変動の緩和に寄与しています。また、希少な動植物の生息地としても知られ、特に鳥類の多様性が豊かです。この遺産は、自然環境の保全と地球規模の環境問題への取り組みの象徴となっています。
The Emergence of Modern Human Behaviour- The Pleistocene Occupation Sites of South Africa Description Maps Documents Gallery
South Africa
現代人類行動の出現 – 南アフリカの更新世占有地 南アフリカ
人類の進化と文化的発展に関する重要な証拠を提供する考古学的遺跡群です。これらの遺跡は、約10万年前から現代人類の行動が形作られた初期の痕跡を示しており、道具製作、芸術表現、社会的交流の進化を理解する手がかりを提供します。特に洞窟や岩陰の遺跡からは、石器や装飾品、古代の生活痕跡が発見されています。これにより、人類の知的進化と文化の起源を探る上での世界的な重要性が認められています。
The Cultural Landscape of Al-Faw Archaeological Area
Saudi Arabia
アル・ファウ遺跡の文化的景観 サウジアラビア
この遺産は、古代アラビア半島の重要な交易都市であったアル・ファウの遺跡を中心としています。紀元前1世紀から紀元4世紀にかけて栄えたこの都市は、隊商交易の中継地として繁栄し、建築物や墓地、岩絵、碑文など、多様な文化的遺物が発見されています。アル・ファウは、古代アラビア文化とその商業的・宗教的なつながりを示す貴重な証拠として評価されています。
Te Henua Enata – The Marquesas Islands
France
テ・ヘヌア・エナタ ― マルキーズ諸島 フランス
この遺産は、火山島から成る壮大な自然景観と、ポリネシア文化の豊かな遺産を特徴としています。マルキーズ諸島は、古代ポリネシア人の航海技術や生活様式を示す考古学的遺跡、彫刻、岩絵が多く残されています。また、独特の生態系が存在し、多くの固有種が生息する生物多様性の宝庫でもあります。文化と自然が融合したこの地は、太平洋地域の歴史と精神的価値を象徴しています。
Royal Court of Tiébélé
Burkina Faso
ティエベレの王宮 ブルキナファソ
ブルキナファソ南部に位置し、2024年に世界遺産に登録されました。この遺産は、グルンシ族の伝統的建築様式を代表する場所で、特に精巧な幾何学模様で装飾された泥壁の建物が特徴です。これらの建築物は、地域の文化的アイデンティティを反映しており、住民の社会構造や精神的価値観を示しています。ティエベレの王宮は、コミュニティの歴史や伝統的な工芸技術を伝えるとともに、持続可能な建築技術の一例としても注目されています。
Phu Phrabat, a testimony to the Sīma stone tradition of the Dvaravati period
Thailand
プー・プラバート ― ドヴァーラヴァティー時代のシーマ石の伝統の証 タイ
「プー・プラバート ― ドヴァーラヴァティー時代のシーマ石の伝統の証」は、タイ北東部に位置する考古学的・宗教的遺跡で、2024年に世界遺産に登録されました。この遺跡は、奇岩地形の中に設けられたシーマ石(仏教寺院の境界を示す石)や岩絵群が特徴です。これらの遺構は、7~13世紀にかけてのドヴァーラヴァティー文化の影響を反映しており、仏教の宗教的実践や儀式の場として利用されていました。自然と文化が融合した特異な景観は、東南アジアの歴史と精神文化を物語る重要な遺産です。
Moidams – the Mound-Burial System of the Ahom Dynasty
India
モイダム ― アホム朝の墳丘墓制度 インド
「モイダム ― アホム朝の墳丘墓制度」は、インドのアッサム州に位置し、2024年に世界遺産に登録されました。この遺産は、13世紀から19世紀にかけて続いたアホム王朝の王族や貴族の埋葬地を特徴とします。モイダムは、土や煉瓦で築かれた墳丘墓で、儀式的要素と建築技術を融合した独特の形態を持ちます。これらの墓は、アホム文化の信仰、社会構造、そして東南アジアとインド亜大陸の文化的交流を象徴しています。
Melka Kunture and Balchit: Archaeological and Palaeontological Sites in the Highland Area of Ethiopia
Ethiopia
「メルカ・クントゥレとバルチット:エチオピア高地の考古学・古生物学遺跡」は、2024年に世界遺産に登録されました。この遺跡群は約200万年前から人類が活動した場所で、石器や動物化石、人類の骨などが出土しています。特にホモ・エレクトスやホモ・サピエンスの痕跡が見つかり、人類の進化と文化的発展を理解するうえで極めて重要です。エチオピア高地の独自の環境適応や技術革新を示す重要な証拠が保存されています。
Migratory Bird Sanctuaries along the Coast of Yellow Sea-Bohai Gulf of China (Phase II)
China
「黄海・渤海湾沿岸の渡り鳥保護区(第2段階)」は、中国に位置する重要な湿地保護区で、2024年に世界遺産に登録されました。この地域は、東アジア・オーストラリア渡り鳥飛行ルートの中核をなす場所で、絶滅危惧種を含む多種多様な渡り鳥の生息地です。特にシギ・チドリ類などの越冬地や中継地として重要で、鳥類の生態や長距離移動を支える生物多様性の保全に寄与しています。また、干潟や塩性湿地などのユニークな地形が特徴で、世界的に重要な自然遺産とされています。
Badain Jaran Desert – Towers of Sand and Lakes
China
「バダインジャラン砂漠 – 砂の塔と湖」は、中国に位置する砂漠で、2024年に世界遺産に登録されました。この砂漠は、最大高さ500メートルに達する巨大な砂丘群が特徴で、世界で最も高い砂丘の一つとされています。また、砂丘の間には無数の湖が点在し、地下水が供給することで緑豊かな景観を形成しています。この地域は、乾燥地帯における自然の驚異を示すとともに、生物多様性や独自の生態系を支えています。地質学的、景観的な美しさが際立つ特別な場所です。
Hegmataneh
Iran
「ヘグマタネ」は2024年に世界遺産に登録されました。この遺跡は、イランのハマダーン州に位置し、古代メディア王国の首都エクバタナとしての歴史的意義を持っています。その後、アケメネス朝やパルティア朝でも重要な政治的・文化的中心地となりました。発掘調査では城壁や宮殿跡、宗教施設、居住区などが発見されており、古代イランの高度な都市計画や建築技術を示しています。ヘグマタネは、古代イラン高原における歴史と文化の重要な証拠を提供する貴重な遺産です。
Human Rights, Liberation and Reconciliation- Nelson Mandela Legacy Sites
South Africa
「人権、解放と和解 ― ネルソン・マンデラの遺産地」は、南アフリカにおけるアパルトヘイト時代の闘争とその後の和解の象徴的な場所群で、2024年に世界遺産に登録されました。ネルソン・マンデラの生誕地や政治活動の拠点、収監されたロベン島などが含まれ、彼の生涯と南アフリカの人権運動の歴史を物語ります。これらの場所は、自由と平等を求めた闘争、和解と平和への道のりを象徴する重要な遺産として評価されています。
Frontiers of the Roman Empire – Dacia
Romania
「ローマ帝国の国境 – ダキアの防衛施設」は、ルーマニアにある古代ローマ帝国の北東部国境防衛線で、2023年に世界遺産に登録されました。この遺産は、トラヤヌス帝によるダキア征服後(106年)のローマ統治時代に築かれた防衛システムを示しています。要塞、砦、監視塔が含まれ、戦略的に配置されたこれらの施設は、ローマ軍の軍事技術や帝国の広大な支配範囲を物語ります。この防衛線は、ローマ帝国の北方国境の統制と文化的影響の象徴です。
Beijing Central Axis- A Building Ensemble Exhibiting the Ideal Order of the Chinese Capital
China
「北京の中央軸線―中国首都の理想的秩序を示す建築群」は、2024年に世界遺産に登録されました。この軸線は、北京市内を南北に貫く中心軸で、13世紀の元朝時代に整備され、その後明・清時代に発展しました。故宮、天安門、天壇、鐘楼、鼓楼などの重要建築物が含まれ、都市計画と建築が一体化したデザインが特徴です。この軸線は、風水思想と儒教的な秩序を反映し、中国の伝統的な都市設計と権力構造を象徴しています。
Brâncuși Monumental Ensemble of Târgu Jiu
Romania
「タルグ・ジウのブランクーシ記念建造物群」は、ルーマニアの彫刻家コンスタンティン・ブランクーシが手掛けた野外彫刻群で、1930年代に第一次世界大戦の犠牲者を記念して制作されました。2024年に世界遺産に登録されています。この建造物群は、「無限の柱」、「沈黙のテーブル」、「キスの門」という3つの彫刻で構成され、シンプルで抽象的なデザインが特徴です。これらは、犠牲、記憶、再生の象徴であり、モダニズム彫刻の革新と精神性を反映しています。ブランクーシの芸術的遺産を示す代表的な作品群です。
Umm Al-Jimāl
Jordan
「ウム・アル=ジマール」は、ヨルダン北部に位置する古代遺跡で、2024年に世界遺産に登録されました。この遺跡は、ローマ、ビザンチン、初期イスラム時代の重要な交易拠点であり、特に玄武岩を使用した独特の建築が特徴です。住宅、教会、貯水システム、塔などが含まれ、乾燥地帯での巧みな水利用技術が見られます。ウム・アル=ジマールは、砂漠地帯における持続可能な都市計画と多文化の融合を象徴する遺産で、交易と文化の交差点としての歴史的重要性を示しています。
The Archaeological Heritage of Niah National Park’s Caves Complex
Malaysia
「ニア国立公園の洞窟群の考古学的遺産」(The Archaeological Heritage of Niah National Park’s Caves Complex)は、マレーシア・サラワク州に位置し、2024年に世界遺産に登録されました。この遺産は、人類の最古の居住地の一つとして知られ、約4万年前の遺物や人骨が発見されています。ニア洞窟群は、先史時代からの人類の生活、道具の使用、埋葬の痕跡を示す重要な考古学的証拠を提供します。また、洞窟内の岩絵や動植物の化石は、当時の環境と文化を理解する上で貴重です。人類の進化と文化の形成を物語る重要な遺産とされています。
Cultural Landscape of Kenozero Lake
Russian Federation
「ケノゼロ湖の文化的景観」は、ロシア北西部のアルハンゲリスク州に位置し、豊かな自然と人間の活動が調和した文化的景観です。ケノゼロ湖周辺の村々では、伝統的な木造建築や教会が保存され、地域の文化的アイデンティティが保たれています。また、宗教儀式や農業、漁業など、古代からの生活様式が今も続いています。美しい湖や森林の景観とともに、歴史的な文化遺産が評価され、地域の伝統文化の象徴として保護されています。
Saint Hilarion Monastery/ Tell Umm Amer
State of Palestine
「セント・ヒラリオン修道院/テル・ウム遺跡」は、パレスチナにある初期ビザンティン時代の重要な宗教遺跡で、2024年に世界遺産に登録されました。セント・ヒラリオン修道院は、4世紀に設立され、中東地域で最も古い修道院の一つです。テル・ウム遺跡は、古代から中世にかけての連続的な居住跡が見られる考古学的な重要地点で、複雑な建築と宗教的意義が評価されています。この遺産は、地域の宗教史と文化の発展を象徴しています。
Sado Island Gold Mines
Japan
佐渡島の金山 日本国
日本の新潟県佐渡市に位置し、江戸時代から明治時代にかけて金や銀を採掘した鉱山遺跡です。1601年に本格的な採掘が始まり、徳川幕府の重要な財源として日本の経済発展に貢献しました。手掘り技術から西洋式採掘技術への進化を示し、採掘跡や精錬施設、関連する集落などが良好に保存されています。自然環境と調和した文化的景観が特徴で、日本の鉱山技術と歴史を物語る貴重な遺産です。
Schwerin Residence Ensemble
Germany
シュヴェリーン宮殿群は、ドイツのメクレンブルク=フォアポンメルン州にあり、2024年にユネスコの世界遺産に登録されました。この遺産は、シュヴェリーン宮殿を中心に、庭園や歴史的建築物が含まれる壮大な建築群です。宮殿はゴシック、バロック、ルネサンスなど多様な建築様式が融合しており、中世から続く貴族の居城としての歴史があります。周囲の庭園や湖は自然と調和し、美しい景観を提供します。シュヴェリーン宮殿群は、その建築的価値と歴史的重要性から高く評価されています。
Lençóis Maranhenses National Park
Brazil
レンソイス・マラニェンセス国立公園は、ブラジル北東部に位置する広大な砂丘地帯で、2024年に世界遺産に登録されました。白い砂丘が広がる景観が特徴で、雨季には砂丘の間に青や緑のラグーンが出現し、独特の美しさを見せます。この地域は、砂漠のように見える一方で、豊かな生態系を持ち、砂丘とラグーンが織り成す景観は、訪れる人々に神秘的な自然の驚異を体験させます。
登録範囲の拡張物件
Moravian Church Settlements
Denmark Germany United Kingdom of Great Britain and Northern Ireland United States of America
「モラヴィア教会の入植地群」は、デンマーク、ドイツ、イギリス、アメリカ合衆国にまたがる18~19世紀のキリスト教モラヴィア教会の計画都市群で、2024年に世界遺産に登録されました。これらの入植地は、宗教的共同体の理念に基づき、社会的平等、教育、福祉を重視して設計されました。シンプルで機能的な建築様式や公共空間の配置が特徴で、教会、学校、作業場、住居が調和した形で配置されています。これらは、信仰に基づく生活と共同体の理想を示す重要な文化的遺産です。
2024年に登録された世界遺産一覧